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でんきのはなし

Special Interview ピーター・バラカンさんが〈生活クラブでんき〉を選び、利用し続ける理由とは?【後編】


バラカンさんが選んだ 未来について考えるヒント。

バラカンさんが最近読んでおもしろかったと紹介してくれた、イスラエルの歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリの最新著書『NEXUS 情報の人類史 上・下』では、膨大な歴史をたどりながら、情報が人類の歴史や社会にどのような影響を与えてきたのかを解き明かしています。また、インターネット社会におけるメディアとの向き合い方、情報の真偽をどうやって見極めるのか、AIの危うさなど、情報リテラシーの重要性にも触れられています。


そしてもうひとつ、「生活クラブの組合員のみなさんにもぜひ見てほしい」とバラカンさんがおすすめしてくれたのは、2025年、日本で公開されたドキュメンタリー映画「2040 地球再生のビジョン」*。バングラデシュで実際に行われている、まったく新しい電気のあり方が紹介されていました。各々が家の屋根につけたソーラーパネルで自家発電し、余ったり足りない時には近隣の住民同士でシェアするという「マイクログリッド」と呼ばれる送電システム。電気は発電所だけでつくるものではなく、電気を自給自足し、みんなで賄う。私たちが今まで当たり前だと思っていたものは、他の方法で代替可能なのではないか。映画で紹介されている世界11カ国のアイデアには、未来を変えるヒントが詰まっています。

「エネルギー問題についてもっと身近に考えてみれば、今は誰もがコンピュータやスマートフォンを使い、AIが普及すればするほど必要な電気量も増えていく。それをどうやって賄うかが、これからますます大きな課題になっていくはずです。今、日本政府が原発を積極的に再稼働させようとしているけれど、それはいいことなのかよくないことなのか。よくないことだとしたら、なぜよくないのか。そのことをわかりやすく、政治的な思惑なしに伝えるメディアが必要ですよね。多くの人は知らないんだと思うんです。知らないうえでの選択と、知って選択するのとでは大きく違ってきます。そのためにも、まずは知ることがやっぱり大切なんですね」



まずは、現実を知ることから。
大事なことは身近な人とシェアを。

バラカンさんは、日本に住んで50年あまり経ちますが、日本のメディアではなく、英語のメディアを見ていることが多いと言います。言語の壁はありますが、私たちもなるべく多くの情報に触れて、取捨選択できる力をつけたいもの。バラカンさんはどうやってメディアを選んでいるのでしょうか。

「SNSは使い方次第だと思います。自分となんとなく価値観が近い人をフォローしていると、入ってくる情報に結構おもしろいものがある。あとは新聞。最近、新聞を読む人はどんどん減っていますが、他では入ってこない情報があります。新聞は限られたページの中で、編集者が選んだ情報だけが目に入る。それを僕は大事にしています。世の中で起きていること、その解釈を把握することを日常的に意識していますね」

まずは世の中で起きている現実を知ること、日常の中であらゆることに関心を持って情報に接すること。そして、自分が大事だなと思ったことは、身近な人と話をしてみること……。エネルギーや電気について関心を持ち、再エネを中心とした電気を選択したいと思っても、家庭内での合意を取るのが難しい場合もあるかもしれません。しかし今一度、本当に原発が必要なのか、家庭内で話し合う場を持ってみては、とバラカンさんは話します。

「僕自身、女房から〈生活クラブでんき〉が始まるから切り替えようと言われなければ知らなかった。もちろん反対はしませんでしたが『料金は変わるの?』と聞いたはず。大抵の男性は聞くと思います。でも、再エネで賄えるなら、多少高くなってもいいと思っています。原発をなくすためには、消費者一人ひとりの努力が必要ですから。でも、このチラシ**を読んで決して高くないことがわかりました。大事なことは夫婦間や友だちと話して、少しずつ問題の意識を広げていくこと。諦めずにコミュニケーションを取ってほしいですね」



今年で10周年を迎える〈生活クラブでんき〉。自分たちで再エネの電気をつくり、各地域にある発電所では地域社会への還元など、さまざまな取組みを行い、発信をしてきました。

「電気をつくる地域がどういう社会になっているか、そこにどういう人たちが住んでいるか、彼らは何を必要としているか…〈生活クラブでんき〉について僕も初めて知ることばかりでした。そうした試みはどれも素晴らしいと思いましたし、生活クラブならではの取組みだなと。我が家はもう40年近く生活クラブにお世話になっています。再エネ中心の〈生活クラブでんき〉を、これからもずっと使い続けますよ」

これからあと20年、30年…もっとたくさんの人に〈生活クラブでんき〉を使ってもらいたい。バラカンさんとの対話を通して、心新たにこれからの社会、環境、すべての人にとって、より持続可能なエネルギーをお届けしていきます。



*映画「2040 地球再生のビジョン」はロードショーは終了しましたが、自主上映会がどなたでも開催可能です。
興味のある方は、配給元ユナイテッドピープルが運営する映画上映サイトcinemoへ。上映会開催情報も確認できます。

**2024年10月4回(43週)発行生活クラブOPNION



撮影:加瀬健太郎 文:薮下佳代


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