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でんきのはなし

電気って必要ですか?「節電家」の連続コラム④

節電の道に踏み入れたのはいまからちょうど10年前の夏、東京・渋谷の賃貸マンションでした。ひとりで踏み入れたその道は、暗く険しい道でした。何しろそれまでの人生で節電の経験はゼロだったのに、電力会社との契約を最小の5アンペア(A)にしたのです。一度に使える電気は500ワットまで。東京電力のカスタマーセンターの女性には「エアコンも電子レンジも使えません。掃除機の強もだめ。普通の生活はできなくなりますよ」とアンペアダウンを申し入れた時に言い渡されていました。ぼくはそれに対して「いいです。使いませんから」とみえを切りました。ブレーカーが落ちたら負けだと思っていました。
いざ5A生活を開始して最初に洗濯機を回した夜のことは忘れません。家中のコンセントからプラグを抜き、照明も消し、真っ暗な中で洗濯を始めました。いつブレーカーが落ちるかもしれないと洗濯機の前に立ち、洗い・すすぎと進むのを見守ります。最後の脱水まで無事に終わったとき、うれしくて思いもかけず「やったー」と大きな声が出ていました。そして、暗闇に響いた自分の声に驚き、我に返ります。「こんなハラハラしてたんじゃ、これからの節電生活、もたないぞ」

 

 

相手がウイルスでも幽霊でもたとえ電気でも、相手が見えないという状況は不安や恐怖を誘うものです。もし、どのくらい電気を使っているか見ることができれば、真っ暗にした部屋で、ブレーカー落ちにおびえながら洗濯機の一挙手一投足を見守る必要もありません。そこで、まず「電気の見える化」に着手することにしました。
大変そうですが、簡単にできました。「ワットチェッカー」という計器を入手したのです。ネットはもちろん、ホームセンターなどでも数千円で買うことができます。家電のプラグをワットチェッカー経由でコンセントにさすと、流れる電気の量が数値となってわかるというものです。これで家中の家電を片っ端から計測していきました。冷蔵庫はドアを開けると電気消費がはね上がること、ノートパソコンの電力消費は1Aにも満たないことなどを次々とわかりました。洗濯機はたくさんの水が洗濯槽に入った洗いの行程が一番消費電力が大きいかと思っていました。ワットチェッカーを使って測ると、洗いは最大でも1・6Aほどで、脱水が4Aを記録しました。モーターを高速で回転させるときに、一番電気を使っていたのです。家電がどんな状況でどのくらいの電気を使うかを正確に把握できたことで、ぼくはブレーカー落ちの恐怖から解放されました。

 

 

斎藤健一郎さん(朝日新聞文化部記者)
著書に「本気で5アンペア」コモンズ、「5アンペア生活やってみた」岩波ジュニア新書
生活クラブ生協の組合員で地域の活動にも参加されています
(次号へ続く)