

■でんきの生産地 「さがみこファーム」
深い自然に囲まれた、神奈川県相模原市青野原地区。1,165枚の太陽光パネルの下、36種類のブルーベリーやワイン用のぶどうを栽培しています。また、ブルーベリー狩りを楽しむことができる体験農園としても運営し、さがみこファームは、地域にひらかれ、人が集う発電所です。「生活クラブでんき」と、2023年に提携して以降、一部の電気を組合員宅や配送センターに供給してきました。緑と光あふれる土地で、食とともに生産される電気の魅力を感じられる発電所です。


東日本大震災を機に再生可能エネルギーの発電事業を始めた山川勇一郎さん。相模原市で初めて実現したソーラーシェアリング、(株)さがみこファームの代表です。エネルギーと食の生産、人の交流や地域づくりを発展させながら描いている未来について伺いました。
お話:(株)さがみこファーム/たまエンパワー(株)
代表取締役社長 山川勇一郎さん
■発電事業者の前に農業者であること
2013年から再エネの事業に携わっています。数年続けたあと「再エネをもっと広げたいけれど、山を切り開いて太陽光パネルを増やすことはしたくない…」と考えている時に、ソーラーシェアリングに出会いました。おもしろそうだと思いながらも、当時住んでいた多摩市では農地が少ないので始めるのが難しくて。ある時、相模原出身の工事業者さんに会った時に、相模原は都心からも気軽に行ける距離で農地も多い場所だと聞き、今のさがみこファームの構想が始まりました。
ソーラーシェアリングは農地で行なうので当然農業が基本です。だから発電事業者の前に農業者であることを大事にしています。当たり前のことではありますが、借りている農地の草刈りなど日々の管理も含めて、真面目に農業に取り組んでいます。地主さんやこの地域の方に理解してもらうことも大事に考えているので、時には地域の方と2時間くらい世間話をしたり(笑)。そうして信頼関係を築いています。
作物のブルーベリーは、ある程度日陰で育てられ病虫害に強いので、太陽光パネル下での栽培に適しています。周りにもブルーベリー農家さんがいますし、この地域の気候にも合っています。観光農園にしたかったので、みんなで収穫できて相性もよいんです。


■エネルギーを実感する場へ
僕は、東日本大震災が起こるまで、富士山麓で10年ほど自然のガイドをやっていました。子どもから大人、外国の方もあらゆる人を案内して、自然の楽しさ、厳しさ、大切さを体系的に学ぶことができるアウトドア活動に従事してきました。その後、太陽光発電の事業者へ転向し、その時点でそれまでの活動に一旦区切りをつけました。ソーラーシェアリングを始めることを決意し、挑戦していく中で、自然豊かなこの場所で、今まで自分がやってきたことを全て活かした体験型のフィールドをつくっていこうと思うようになりました。

生活クラブと提携して発電所を建設してから、ファーム全体がぐっと発展できていると感じています。組合員の方たちもたくさん来てブルーベリー狩りを楽しんでくれていますよ。
ここに来ると、太陽光で発電し、そのパネルの下で作物が育ち、電気が家庭に流れていくような、目に見えないエネルギーの流れを実感できるのではないでしょうか。そんなふうにソーラーシェアリングと観光や教育を掛けあわせて楽しみながら学べる体験の場にするために、発電所を増設して新たに「食とエネルギーのテーマパーク」をつくっている最中です。



ソーラーシェアリングは各地にありますが、実際に訪れて体験できる場は少ないと思います。ソーラーシェアリングの取り組みや、本質を伝えることができるのは、こうして多くの人に開かれた場所だと思いますし、社会に必要な場所だと思っています。
ここには「ブルーベリー狩りに行こう!」という理由で来てもらえればいいと思っています。来て初めて、「なんで太陽光パネルがあるんだろう」とか「再エネってなんだろう?」という興味につながっていくと思います。さがみこファームは、そういう気づきを促せるようなフィールドにしていきたい。こちらから一方的に説明するのではなく、自ら気がついて行動を変えることが大事だという想いが根底にあります。ここがほかの発電所や農地と違うのは、こういう背景があるからです。だからこそ、1人でも多くの方に訪れていただいて色々な体験をしてほしいと思っています。
撮影:加瀬健太郎 取材・文:菅原良美(akaoni)
※この記事は2025年10月5回(43週)発行生活クラブOPINIONの記事に内容を追加して掲載しました。